平成7年度の研究は、二つの方向に分けて実施された。 1.高齢者の仕事づくりに関する研究-長寿化が進むなかで、高齢期の経済保障と生きがいを実現する仕事づくりの実験がある。高齢者協同組合は、国の施策や労働市場の成り行きにまかせるのではなく、高齢者自身とこれから高齢者になるものとが協同組合方式で高齢期の仕事と高齢者のための地域福祉をつくろうとする試みである。そのなかから代表的な3事例(1)ワーカーズコープベ-カリ・はじめ工房(神奈川県相模原市)、(2)川崎市高齢者協同組合準備会(ヘルパー事業・給配食事業)、(3)センター事業団(緑化事業)をとりあげ、調査研究を実施した。組合員全員を対象とした調査内容は、設立にいたるプロセス、組合員になった経過、事業内容、組織内容、就労形態などである。その聞き取り調査から明らかになったのは、収入よりも、安全・安心をコンセプトにした地域環境整備や食関連事業を通して地域の住民に貢献しているという意識が高齢者の働く意欲を支えているという事実である。1996年度は、高齢者協同組合の事例調査をさらに重ねることにより、高齢者協同組合の可能性と問題点を分析する予定である。 2.女性を中心とするワーカーズ・コレクティブの調査研究-一つはもっとも安定した事業実績をあげている企業組合「凡」(東京都町田市)を事例としてとりあげ、メンバー全員を対象とした綿密な面接調査を実施し、自主管理型の仕事づくりにかかわる過程で「労働」概念や地域で働くことの意味世界がどのように変容してきたのかをあきらかにした。加えて「凡」が事業体としてどのように自立していったのか、その過程にどのような問題があったのかについて、「凡」の歴史的軌跡をまとめた。もう一つは、東京都の生活クラブ系のワーカーズ・コレクティブ46事業体をとりあげ、代表者を対象としたアンケート調査を試みた。仕事づくりの理念と事業実績との間の葛藤、メンバーが主婦であることが明らかにされた。1996年度は、さらに聞き取り調査を重ねることにより、考察を深めていく予定である。
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