1996年4月1目、東京都小笠原村は新たな歴史の1ページを開くこととなった。これまでテレビ放送と言えば、NHK衛星放送2局しか視聴できなかった小笠原に、民間放送8局の地上波が導入され、東京23区と同じように合計10局のテレビ放送を享受することができるようになったのである。そこで、本研究はテレビ地上波導入をはさんで、「事前調査」と「事後調査」を行い、この2つの結果を比較分析することによって、テレビというマス・メディアが小笠原祉会に与える影響を実証的に明らかにしようとする点にあった。その研究成果については、『メディアの多様化と小笠原社会の変容』と題する調査報告書にとりまとめたが、そのうちの一部のみあげれば、先ず、テレビ視聴時間については、明らかに地上波導入以後の方が長くなるという結果であった。すなわち、事前調査では、2時間以内の視聴が6割程度に達していたが、事後調査では、3時間視聴が23.0%、4時間以上の視聴が29.1%という結果であり、長時間視聴者の増加はまことに顕著であった。しかし小笠原では、新聞の購読が習慣化されていないために、テレビ情報だけでは、これまでの「情報格差」からの脱却は不可能であることを指摘した。また、テレビ視聴時間の増大は、「家族や近隣での会話を少なくする」方向に作用していることが明らかになった。小笠原において、テレビ地上波の導入は人々の会話のチャンスを奪い取るという結果になっていることが判明した。ほかに、テレビの社会的な影響として、小笠原住民が懸念している事柄は、生活様式や思考様式の画一化作用、青少年の非行化作用、風俗や習慣の流動化作用などであった。これらの詳細な分析については、上記「調査報告書」のほか、別途、研究成果として刊行物を予定しているところである。
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