本研究では、漁業従事者の漁業労働と船内生活(換言すれば、漁船乗組員の生産生活と消費生活)を「海上生活構造」として捉え、その実態をフィールドワークによって把握した。まず、漁具や各種の船内機器・設備の拡充による漁業労働の変容を、次に、漁業労働との関係をおける消費生活の実態と従属性を、さらに、船上における乗組員の地位・役割にもとづくコミュニケーションの実態を、それぞれ把握した。本研究は西日本の太平洋地域におけるカツオ一本釣漁業を対象にして調査研究を推進した。具体的には、沖縄県、鹿児島県、宮崎県、高知県、三重県において実証的な研究を行なった。本研究の成果は次の2点である。 1.漁船乗組員の船上における生活を社会学的に分析するために海上生活構造という概念を提示した上で、その実態把握に不可欠な調査技法(参与観察法と生活史法)の有効性と問題点を検討した。 2.地域研究の成果は沖縄県と鹿児島県、南太平洋・ソロモン諸島を事例として公表した。 (1)沖縄県と鹿児島県(枕崎市)では、漁業動向を把握し、その特質を分析した上で、カツオ漁業の展開過程とその漁船乗組員の海上生活について歴史的な資史料をもとに検討した。 (2)南太平洋・ソロモン諸島では、沖縄県宮古郡伊良部町佐良浜地区の漁業者が出漁している合弁カツオ漁業会社ソロモン・タイヨ-社を事例として、海外基地カツオ漁業の史的展開を整理するとともに、漁船乗組員の現地化の意義を検討し、海外出漁による技術移転の成果を把握した。また、混乗カツオ漁船における乗組貝の船上におけるコミュニケーションや文化変容の突態を明らかにした。他方、ソロモン出漁母村となる伊良部町の地域概要を統計資料・行政資料から整理した。
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