研究課題/領域番号 |
07451081
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安田 二郎 東北大学, 文学部, 教授 (90036666)
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研究分担者 |
三浦 秀一 東北大学, 文学部, 助教授 (80190586)
熊本 崇 東北大学, 文学部, 教授 (00153354)
寺田 浩明 東北大学, 法学部, 教授 (60114568)
中嶋 隆蔵 東北大学, 文学部, 教授 (10004061)
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キーワード | 八議 / 官僚 / 士大夫 / 司馬炎 / 貴族制 / 法的合意 / 宗教 / 法的身分 |
研究概要 |
皇帝の親族、功臣や高官など、皇帝・王朝と8種の特別な関係にある官僚には、刑法の一律的適用を控え、天子の聖断に委ねて減免を施す「八議」の制は、前近代中国官僚制の特異さを現わしている。「士大夫には公衆の面前で辱かしめる刑罰を加えない」との古典的儒教の礼理念に淵源するこの制は、漢代でも相当の展開が見られたが、なお慣行に止まり、明文法化は、貴族制の形成期たる三国時代の魏律が最初で、以後、踏襲される。特に続く晋代では「巨悪を野放しにする」と批判されるまでに盛行した。王朝権力が、拮抗する社会勢力(豪族・貴族)に個人的な恩恵を賦与して収攬し、権力の脆弱性の補強を期したことが、その要因となされる。それが、意外なことには、貴族制の展開期たる南朝代に入ると、「八議」に関する明示的言及は一切見出されず、空文化していたとの疑いさえもいだかせる。しかしながら、皇族や貴族に対する重罰が、恥ずべき「棄市」ではなく、名誉を重んじた「賜死」が多数を占め、しかもそれが皇帝の恩典として下されていて、「八議」の影響・機能を見てとることができる。表面に出ないまでに「八議」が体制の中に肉化されていたとこそ理解すべきである。帝権が格段に強化されて貴族制が大転換期を迎える唐になると、「八議」の規定が詳細に整備され、同時に適用に関連する記事が再び目につくようになることは、上の如き想定を補強する。元来が、「八議」の適用には、「大逆不道」の「十悪」は最初から対象外とされていたし、手続き上も、司法官は預じめ適用の検討自体を皇帝に上請して許しを得ねばならなかったし、固より最終決定は皇帝の手中に帰していた。専制君主は、幾次にも恣意的に意向を介入させ得たのであって、この意味で、官僚に保証された「八議」に関わる特権の不安定さは否み難い。唐代、「八議」を守ることを士大夫の権力を守ることと同一視する官僚が現れた所以である。
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