研究概要 |
今年度は,研究課題に関係する方志,〓案,石刻墓誌などの史料の購入とともに,東洋文庫・東大・北大・鹿児島県立図書館などの史料収蔵機関に出張し,関係史料の収集・充実を図ったうえで,考察・分析を進めた。 森安は,中央アジア出土文書の分析を行ない,モンゴル時代の全ユーラシアに活躍した斡脱(オルタク,或いはオルトク)商人の起源につき,従来のほとんどの見解では,イスラム教徒のトルコ人一般(ウイグル人を含む)とされてきたが,実は仏教徒のウイグル人であることを明らかにし,現在論文としてまとめつつある。谷口は,近世以降の長江中流域における鎮の形成・発展の条件につき,16世紀後半以降の湖広地域,とくに漢水流域と洞庭湖周辺での開発(水利灌漑を核心とする)の進行とこれに伴う綿花栽培の進展とが,商品経済の発展を促し,漢口鎮・劉河隔鎮を始めとする多数の鎮を生み出したこと,また,これら鎮のなかで,湖北省の漢口鎮がとりわけ立地条件に恵まれていたことを重視して,考察を進めている。濱島は,長江下流域の水路による移動・定住につき,漢籍史料の分析から,近世における信仰状況の変動を最終的に確認し,論文「近世江南金総管考」をまとめた。片山は,旧中国農村社会につき,従来,「村の境界」「村の領域」の欠如が通説とされてきたが,19〜20世紀前半の珠江デルタでは,行政村のみならず自然村にも境界・領域が存在することを,論文「清末・民国期,珠江デルタ順徳県の集落と「村」の領域」にまとめ,新しい地平を切り開いた。桃木は、近世のベトナム北部(ナムディン.タインホア,ゲアン等)について,住民の移動を示す家譜などの史料収集を行ない,中国やチャンパからの渡米,北部ベトナム内部での移住などの類型ごとに分析・考察を進めている。沈は,長江下流域北岸から大量に流入して,上海の人口の重要部分を構成した「蘇北人」に関する諸資料の収集・分析を進めている。
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