本研究は、「家庭生活と職業生活の調和」という課題について現状の法的問題分析と比較法的考察を加え、労働法学および社会保障法学の立場から、将来のあるべき立法政策を考える際の基本的方向を模索したものである。 具体的には、まず、わが国において家庭生活と職業生活の調和という観点から特に問題となる女子労働をめぐる現状、そこで惹起される法的諸問題、これまでの法制度の対応について問題点を整理した。ここでは、雇用平等という理念と家庭生活・職業生活の調和という理念との間にある緊張関係のなかで、日本の雇用機会均等法が女子への片面的保護や均等待遇の努力義務といったユニークな対応を行っていることが明らかにされた。 次に、このような我が国の現状を踏まえて、諸外国、とくにスウェーデン、フランス、ドイツにおけるこの問題をめぐる法政策、議論状況を検討した。その結果、育児・介護糖に対する支援のほかに、雇用関係自体の柔軟化・多様化が重要であることが確認された。 こうした問題の所在をふまえて、日本型雇用のもとで展開される単身赴任をめぐる裁判例、出産・育児のためにフルタイム労働からパートタイム労働へ転換した労働者の処遇といった、家庭生活と職業生活の調和をめぐって争われている新たな裁判例について、詳細な検討を加えた。 最後に、我が国の法政策の展開を総括し、一方で男女雇用平等を促進しつつ、家庭責任を負う労働者に対する社会的サポートを整備し、かつ、多様な雇用関係を選択できる環境整備を図ることの必要性を確認した。こうした観点から、雇用機会均等法の課題、労基法の女子保護規定の問題、少子・高齢社会における休業制度の課題、パートタイム労働の課題を検討した。
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