本年度の研究は主としてアメリカ側について、以下の論点に関して行なった。 (1)政策案を具体化し、政治家に伝達する政策専門家の役割に関して。これには、環境保護団体にフルタイムで雇用されている科学者や弁護士など、シンクタンクや大学の研究者、議員ないし議会委員会の立法担当スタッフ、議会研究部門の調査員、そして官僚が含まれる。この専門家のネットワークは非常に広範囲に拡散しており、またとくに本研究でとりあげた公害未然防止案のような新規の政策案の場合、官僚の役割が小さいことが重要な特徴である。 (2)環境保護を求める草の根の社会運動の役割に関して。今日のアメリカ社会では、有毒ないし有害廃棄物処理場あるいは廃棄場に対して、あるいは化学工場に対して、その周辺地域において、激しい反対運動が起きている。最近まで、このような運動に対しては「過激」あるいは単なる「急進的」といった理解が多かったが、詳細に分析を進めた結果、これらは必ずしもいわゆる住民エゴから発生した反対運動ではなく、企業や工場に対してより徹底的な公害未然防止策の採用を求める運動でもあったことが解明された。 (3)政策専門家と草の根運動との関係について。実は両者の間には、少なくとも公害未然防止政策の推進という点で、かなり太いパイプが存在していた。いくつかの環境保護団体は、積極的に草の根の団体と接触して、新しい政策案の必要性を説き、また指導者用のマニュアルを作成していたのである。 (4)要するに、一見無関係と思われる両者は、実は一つの大きな政治的連合体のなかに包含され、その不可分の構成要素となっていたのである。
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