研究概要 |
『賃金センサス』を用いた分析によると、55〜59歳層に関して、教育程度が低くなるほど勤続が短くなる、大都市圏と非大都市圏との勤続年数の格差が縮小している、産業間の勤続年数の違いがわずかながら縮小している、企業規模間の勤続年数の違いが縮小している、(5)60歳定年制の導入による勤続年数長期化が著しい、等の傾向が確認された。 『解雇権濫用法理』の存在意義に関する理論分析によると、当法理が、労働者の生存権や勤労権、継続的労使関係における信義則上の義務、労働者の交渉力の弱さなどの視点からだけではなく、経済システムの効率性をも促進する可能性のあることが明らかにされた。 男女間賃金格差に関する分析によると、1980〜1994年の間の格差縮小傾向が、男女間の属性に関する差異が縮小することによってもたらされたことが判明した。さらに、勤続年数・職位・職階・(勤務する)都道府県・教育程度の主要な4要因が賃金格差に与るインパクトの大きさとその時系列的な傾向も明らかにされた。 『賃金センサス』を用いた昇進に関する分析により、非生え抜きや中途採用者に対する差別的待遇の後退傾向が確認された。この点は、近年の日本的雇用慣行変質論が、1980年代に既に観察される傾向の延長戦上に位置づけられることを示唆している。 女性の継続就業確率に関する分析から、大卒女性の勤続就業確率を増大させるためには、大卒女性が卒業時点で強固な継続就業意識を持つこと、給与などに関する男女間格差が是正されること、男女間の残業時間格差をなくすことが効果的であることが判明した。 長期雇用慣行を支える労使関係に関して,労働者個人と民間企業人事部との双方に対するアンケート調査を行った。分析結果によると,・労働組合は賃金引き上げ効果をもたないが,従業員が発言するルートを開いている。・組合のある企業では,団体交渉と労使協議を中心とした発言がなされているのに対して,組合のない企業では,それ以外の発言機構を介した発言がなされている。・しかしながら,組合にせよ組合とは異なる発言機構にせよ,そこでなされた発言は必ずしも退出の減少には結びついていない。以上の結果から,日本の労使関係が,長期雇用に利害関心をもつ従業員の発言を促進するけれども,必ずしも長期雇用そのもの生み出すものではないという可能性が示唆された。
|