初年度、大戦末期・戦後初期の疎開民・被追放民の状況を一次史料で明らかにし、「疎開と逃避行、追放による難民化-敗戦前後の東部地域のドイツ人民衆」『経済学季報』第45巻第1号をまとめた。 第二年度は、引き続き大戦末期から戦後にかけてのドキュメントを読み、特に、大戦末期におけるさまざまの戦後構想を明らかにして、共著の担当章「ナチ体制下の戦後構想とドイツ資本主義の組織化」権上康男編『20世紀資本主義の生成-自由と組織化-』東京大学出版会、1996年1月、所収)を執筆した。 第三年度は、データを収集し、3年間の研究の総括を行った。大戦末期から戦後再建期に関して、第一に、総力戦敗退過程のドイツ人民衆の茫然自失の麻痺状態と占領地の被支配民衆の活性化を総括した。第二に、スターリングラード敗北期から始まるドイツ社会の「革命的」な変化の様相についてまとめた。 そして第三に、軍需経済から民需経済への移行とそれを可能にする人間的社会的条件、民需の中での戦後復興を主導する部門としての住宅建設の意義を剔抉した。 それを、論文「ドイツ戦後再建の人間的社会的基礎」にまとめ、廣田功・森建資編著『戦後再建期のヨーロッパ経済-復興と統合-』日本経済評論社、1998年2月23日刊に発表した。 他方で、ドイツ人民衆の「麻痺」の構造を立体的に把握する問題意識のもとで、解明すべき論点として出てきた「ホロコーストの力学」について、報告書論文をまとめた。 それは、欧米と日本の最新の研究をドキュメントに基づいて批判するもので、絶滅政策への移行を戦局の根本的転換と関わらしめて理解しなければならないことを示したものである。
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