本研究は東北大学経済学部・田中研究室および同研究室出身の研究者の過去5年間にわたる研究の集大成であるが、科学研究補助金の支給を受けて、1996年10月、田中素香編著『EMS:欧州通貨制度-欧州通貨統合の焦点-』(有斐閣、全14章、総370ページ)を刊行した。 研究代表者はEMS(欧州通貨制度)の基軸通貨ドイツ・マルクが欧州の銀行間外国為替市場でドルを侵食・駆逐しつつ為替媒介通貨化する現象に注目し、本研究組織との討論のなかで「集中化・多様化相乗効果仮説」として定式化した。市場統合によって自由化された欧州金融・資本市場では、EMSによる為替相場の安定によって自国通貨での起債が可能となり周辺国通貨建てを含む多様な金融資産の累積とその間のクロスボーダー取引が機関投資家によって大規模に進められており(「多様化」)、これが為替取引の増大と「集中化」を支援している。つまり「集中化」と「多様化」との相乗効果が観察される。概略このような事実認識を理論と統計資料を駆使して検証し、並行してドイツとフランスの当該問題への対応を明らかにして、仮説の補強を行った。著書ではさらに、ECの第1次経済・通貨同盟計画、1970年代の挫折を経たEMS(欧州通貨制度)の形成、1980年代以降のその発展、それを市場レベルで支えた市場統合と欧州金融・資本市場の形成、さらにEC/EU主要国の経済政策都その成果を丹念に統合し、最後にEU通貨統合に2章をあてている。1992、93年のEU通貨危機によりEUの通貨・金融統合に関しては悲観論が支配的であったが、われわれはEUの外国為替市場・金融市場のレベルで統合を促進する多様化と集中化の相乗効果によって統合を促進する「構造と循環」が形成されており。統合の後退はありえないと考えていたが、その正しさが現在実証されつつある。本研究における業績は。現代EU通貨・金融統合論に市場レベルの基礎を提供するものである。
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