日本の金融システムは、いわゆる不良債権問題にみられるようにシステム不安を抱えたままで金融リストラ、金融革新への取り組みは遅れ、いまや日本の金融業は欧米の金融業に大きく水をあけられている。橋本首相による96年11月の日本版金融ビックバンの提唱も、そのような危機意識の現れであると見ることができる。 日本の金融システムの再構築のために、大蔵省改革、金融持ち株会社導入、情報開示の強化、リスク管理の充実、金融機関破綻処理制度の整備などの提案の他に、ナロウバンクの提案がなされていることが注目される。すなわち政策構想フォーラムによる「純粋銀行」、高木仁氏の「信用創造付きナロウ・バンキング」の提案がそれである。また海外でも、ロンドン・エコノミストによるナロウバンク構想の支持表明、F.R.Edwardsによる「担保付き銀行(collateralized bank)の提案などが現在も相次いでいる。本研究では、内外のこうした新提案をフォローし、とくにナロウバンクをわが国へ導入する場合の問題点を意識しつつ、名古屋、高松、徳島、東京などの手形交換所や貯金事務センターを訪問した。その結果、ナロウバンクの決済コストは利用者から手数料として徴収すべきこと、電子マネーの普及および投資信託などのファンドの充実はナロウバンクの実現可能性を高めること、ナロウバンク制はナロウバンク以外の金融機関をベンチャー企業の育成に注力しやすくするという効果を持つことなどを、明らかにすることができた。 さらに本研究では、金融持ち株会社解禁や日本版ビックバンの実施が待たれるという新しい環境の下で、伝統的銀行業務に特化したコアバンクがもっと注目されてよいことを主張している。その理由は、コアバンクが銀行システムのリスクを削減する効果を持つことに加えて、ブティック型金融機関として持ち株会社や巨大金融機関の競争相手となりうると期待できること、などである。
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