研究概要 |
本研究は、太陽観測用X線望遠鏡の主要要素であるX線多層膜とX線CCDの開発を行なうことを目的としている。多層膜鏡は、原子番号の大きい金属と小さい物質を層状に何層も蒸着したもので、ブラッグ条件を満たす波長のX線を反射するため、カセグレン光学系を組むことができる。単一温度のプラズマ成分の撮像を行なうため、波長分解能λ/Δλは、30-50程度が必要であり従来の多層膜より高い値を必要とする。多層膜X線望遠鏡が、すぐれた温度診断能力を持つ望遠鏡として使用できるかは、この分解能を達成できるかによるところが大きい。本研究では、主に高波長分解能の多層膜鏡の設計・試作・評価を行ない、多層膜鏡の最適化によりどこまで波長分解能を上げることができるかを明らかにした。多層膜鏡は、X線反射のための物質層を薄くしスペーサー物質を厚くすると、X線の侵入長が長くなる(有効層数が増える)ため波長分解能は向上する。逆に、X線反射のための物質層を厚くすると波長分解能は低下するが、反射率は向上する。このため反射層とスペーサー層の厚みの比Γの最適化が可能となる。通常の多層膜では、反射率を重視するためこの比は1:1程度であるが、本研究では波長分解能を向上させるため、スペーサーの厚みを増す(Γを小さくする)。平成7年度は、各種物質の光学定数の組合せを検討し、使用する層物質の組合せとそれぞれの層の厚みの比を数値シミュレーションにより最適化する作業を行ない、Ru/B_4C多層膜(λ=108Å,Γ=0.5,0.2)とSiC/Al多層膜(λ=284Å,Γ=0.5,0.2)を(株)ニコンにおいて製作した。さらに、分子科学研究所放射光施設・宇宙科学研究所で、製作したミラーの分光特性を測定し、上記のアイデアで波長分解能が向上することを確認した(投稿論文準備中)。
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