研究概要 |
本研究では、高分解能磁気分析器と焦点面スピン分光器(FPP)を組み合わせた2回散乱実験により陽子散乱の全偏極移行測定を行い、特に原子核の不自然パリティ状態へのスピン励起を調べることを目的としている。本年度は前年度に引き続き測定効率向上のために、データ収集システムの高速化と2回散乱標的への入射角測定用検出器の製作を行ない、平成9年1月には大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロンからの400MeV偏極陽子ビームを用いて零度非弾性散乱を偏極移行量まで測定することに世界で初めて成功した。 1.CAMACを経由せずに検出器系のデータをVME上のメモリーに落とし、且つ、リフレクティブメモリーを用いた光転送によって、UNIXワークステーションをホストする高速データ収集システム(〜1MByte/sec)の構築に成功した。これらの成果は、IEEE Transactions on Nuclear Science誌に公表された。 2.不要な小角散乱事象に対するセコンドレベル・トリガーの効率を上げるための入射側多芯比例計数管を製作した。補助金の多くは製作費と読み出し回路系の購入(前年度)に当てられた。 3.高分解能磁気分析器Grand Raidenと上記システムを含むFPPを用いて、0^+(P,P, )1^+遷移等への非弾性散乱を零度において偏極移行まで測定することに成功した。現在データを解析中であるが、^<12>Cの1^+(T=0)状態の偏極移行量から、これまで実験的には定量的に強さのわかっていなかった核子間相互作用の弱いアンソスカラー・スピン項についての知見が得られる見込みである。今後、選択性を利用して、より重い核の測定を行ない、M1遷移強度やスピン双極子共鳴を調べる実験を行っていく予定である。
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