研究概要 |
本年度は強磁性金属を用いたMIM型トンネル接合の試作とそれを用いたトンネル分光の予備実験を目標に,超高真空蒸着装置の構成・調整,接合作成法の確立,トンネル分光測定装置の構成を行った. 昨年度購入した強磁性金属の薄膜作成・評価用設備備品を用いた超高真空蒸着装置の本格的な立ち上げを行うため,それらの備品の調整,ロードロック室の構成,電源や冷却水系統を含めたの装置全体の調整,構成を行った.その結果,本研究を行う上で十分な装置の動作を確保した.即ち,強磁性金属Feの電子ビーム蒸着について10^<-8>torr台での動作を実現した.またGaS上への蒸着を数度試み,毎秒0.1nmオーダーの蒸着速度を確認した.さらに,Pb/GaS/Fe接合の試作を試みた.現在のところ良好なトンネル接合の作成には成功していないが,基本的な作成法は確立したと考えている.Fe薄膜の構造評価については,現在RHEED装置で行っている.RHEED等による薄膜構造評価,蒸着速度の向上は次年度の課題である. 磁性層状半導体Mn(or Fe)PS_3の参照物質として使用するため,それと同様の基本層を持つ非磁性層状半導体In_<2/3>PS_3を育成し,その基礎吸収端近傍の光吸収スペクトルを測定した.その結果,In_<2/3>PS_3は4.2Kで禁止帯幅3.1eVの間接吸収端を持つ結晶であることが分った.次年度,In_<2/3>PS_3を用いたトンネル接合の作成も試みる予定である. 一方,トンネル分光測定装置については,今年度購入備品の2位相DSPロックインアンプを用いて構成し,既存の設備に比べ低ノイズで本研究に十分な測定感度・分解能を得ることができた. 以上を踏まえて,9年度は強磁性トンネル現象の弾性・非弾性過程に関する知見を得ることを目指す.
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