研究概要 |
単結晶基板表面に1層以下の原子・分子を吸着させた系の表面構造や電子状態を調べるのにX線吸収分光(XAFS)・X線定在波法は有効な手段である。この場合に吸着種からの蛍光X線を精度よく計測する必要があるが、基板からの蛍光X線が著しく強い場合、例えば、Si結晶表面に吸着したS,Clを含む原子分子のS,ClのK殻XAFSスペクトルはこれまで測定が不可能であった。そこで本研究では全反射放出条件を適用することにより基板からの蛍光X線を抑え吸着種からのシグナルのみを抽出することを試みた。 検出器としてはBe窓を備えた超高真空仕様の比例係数管を採用し、出射角条件を制御するために窓の前に2象限のスリットを設置したものを試作した。また、窓の後ろに基板からの信号をさらに除くためフィルターを設置できるようにした。 まず、自然酸化されたSiの表面XAFS(酸化膜の厚み4〜5Å)では、通常の出射角条件ではほぼ完全にバルクSi単体の情報が得られたが、出射角を浅くしていくにつれて表面の酸化膜の情報が主になるようにスペクトルが変化し、全反射条件下では完全に酸化膜のスペクトルを与えることが明らかにできた。 吸着種の場合はさらに表面濃度が低いため、全反射条件でも基板の信号が無視できない。これを取り除くために、フィルターの使用を試み、いくつかの条件下で基板からのX線を有効に取り除くことのできるフィルターを見出した。特に軟X線定在波法では基板からの信号も単調なバックグランドではなく、基板からの信号の十分な除去が必須であった。全反射条件の実験をするには至らなかったが、従来半導体検出器を必要としたS/Ni(lll)系の軟X線定在波法測定が比例計数管により行うことができたことは極めて大きな収穫であった。
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