研究概要 |
走査トンネル顕微鏡によるトンネル分光は、表面での原子尺度での局所的な電子状態を測定する唯一の手段として利用されてきた。本研究では、この手法を表面に形成されている物質の電子物性を探る手段として活用するために、温度可変走査トンネル顕微鏡およびトンネル分光装置を作製し,いくつかの物質で局所電子状態の研究を行った。 装置開発では、走査トンネル顕微鏡や表面作製評価装置を改良して既存の超高真空装置に取付け,表面清浄化や蒸着・ガス吸着などの試料作製とその表面での局所トンネル分光を可能とした。また、新たに室温附近で温度可変な測定が可能な装置を作製した。 極低温走査トンネル顕微鏡では,4.5Tまでの磁場中での顕微鏡観察やトンネル分光を可能とし、銀吸着ゲルマニウム表面での超伝導探索や磁束侵入、超伝導2セレン化ニオブ単結晶中に現われた新しい電荷密度波とそこへの超伝導近接効果、表面磁性微粒子の局所超伝導破壊効果などの研究を行った。いずれも、フェルミエネルギー近傍の超伝導や電荷密度波による電子状態密度の変化、さらにはその電子状態が外部磁場や表面状の磁性体の効果によって変わるようすを局所トンネル分光によって調べ、その表面構造依存性や温度依存性を明らかにした。 室温では、塩素あるいは水素吸着シリコン表面からの光刺激脱離、シリコン表面での塩素水素置換、銀吸着ゲルマニウム表面、可視光および赤外光を照射中のシリコン表面の光依存局所トンネル電流測定などの研究を行った。試料バイアス電圧を変化させた顕微鏡像の観測により表面での局所電子状態を調べ、原子尺度で光刺激脱離や置換反応の有無を明らかにしたり、シリコン表面近傍での光電子過程や銀吸着ゲルマニウム表面の表面合金化などを調べた。
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