本研究の目的は、「元素ごとの、変換を必要としない直接的な3次元の構造解析法」を新たに開発する事である。ここで用いる原理は、「円偏光X線を試料に照射して、出てくる内殻光電子の2次元的な放出角度分布パターン(光電子回折パターン)の中の前方散乱ピークの位置を測定し、円偏光の極性を左右に変えたときのピーク位置のずれから原子の結合方向と結合距離を直接解析する」というもである。 本年度の円偏光X線の実験は、マシンタイム中にデータの出るところまでいかなかったので、昨年度に行ったW(110)上の酸素吸着系の実験データの解析、円偏光軟X線による価電子光電子の測定、および来年度から始まるSPring-8での円偏光実験のための準備を行った。 W(110)上の酸素吸着系の実験データの解析においては、球面波の多重散乱を考慮した計算を行い、実験結果と比較することにより、吸着位置を正確に求めた。光電子の干渉の影響で、前方散乱のピーク位置から求めた位置と異なる位置が結論されたが、本研究テーマの原理が妥当であるとする前年度の結論には影響は無かった。 円偏光軟X線による価電子光電子の測定をPF BL28Aにおいて行い、理論計算と比較することにより角度分布についての特徴的な選択則を確かめ、価電子の研究にとって新しい強力な方法になりうることを見出した。SPring-8での円偏光ビームラインの立ち上げは、平成9年11月の実験開始に向けて順調に進んでいる。
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