融点直上の液体イオウは、王冠の形をした8員環分子から成る粘性の小さい淡黄色の分子性液体である。我々は、数千オングストローム以下の極めて薄い空間に閉じ込めた液体イオウが、レーザーを照射することによって、(1)8員環分子の開裂と電荷移動錯体の発現、(2)鎖状高分子の生成、さらには(3)巨大分子の秩序形成というミクロからマクロスケールに及ぶ三段階の興味深い構造変化を起こすことを見出した。 特に、最終段階において、20mJ/pulse以上の強いレーザーを照射したときには、液体試料が白濁し、虹色の散乱光が観測される。顕微鏡観察の結果、およそ10ミクロン間隔で並んだ縞模様が観測された。このことは、強いレーザー光照射により、光架橋可逆ゲルあるいは液晶のような巨大分子の秩序形成が生じた可能性が強い。この縞模様はおよそ1分で消滅し元の均質な液体状態に戻る。縞模様が観測されるのは1ミクロン以下の試料空間をもつ光学セルを用いた場合に限られ、それ以上の厚さでは観測されない。このことは、この秩序形成に空間の二次元的拘束条件が大きく関わりを持つことを示唆する。さらに、厚みを次第に厚くしてゆくと、縞模様は観測されなくなるが、数十ミクロンを超えると再び違ったパターンが現れることが分かった。 本年度末に、紫外領域でのレーザー光波長を変えることが可能なVU(紫外線)発生装置が納入され調整を終えることができたので、今後、照射光の波長を変えることによって液体イオウの光誘起現象にどのような変化が現れるかを調べてゆく。
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