融点直上の液体イオウは、王冠の形をした8員環分子から成る分子性液体であるが、数千オングストローム以下の極めて薄い空間に閉じ込め、レーザーを照射すると、(1)8員環分子の開裂と電荷移動錯体の発現、(2)鎖状高分子の生成、さらには(3)巨大分子の秩序形成というミクロからマクロスケールに及ぶ三段階の興味深い構造変化を示すことが、本研究で初めて明かになった。特に、最終段階において、20mJ/pulse以上の強いパルスレーザー(355nm)を照射したときには、試料が白濁し、虹色の散乱光が観測される。顕微鏡観察の結果、およそ10ミクロン間隔で並んだ縞模様が観測された。さらに、0.2から2000ミクロンまでの試料厚みの異なる23種類の光学セルを用いて、照射中および照射後の顕微鏡観察を行なった結果、光誘起現象が厚みにより大きく二種類に分類されることが判った。すなわち、試料厚みが0.2から2.0ミクロンまでの非常に薄い場合には、虹色に色づきかつ明瞭な縞模様が現れるが、35から2000ミクロンまでの厚い場合には、色づきのないカ-テン状のパターンが観測されるようになる。薄い場合に色づいたパターンが現れる利由として、レーザー照射によって巨大高分子が生成されようとする際、空間の二次元的拘束が引金となってコロイドが生成し、それらが集まって何らかの規則構造が出現するためであるというモデルを提案した。さらに、代表的な液体半導体として知られており、イオウと同族の液体セレンに、バンドギャップエネルギーをもつレーザーを照射したところ、透過光が50%以上も減少するという明瞭な光黒化現象が観測された。15mJ/pulse以上のレーザーを照射した直後の過渡吸収スペクトルから見積もった光学ギャップはほとんど閉じており、光誘起半導体-金属転移が起きている可能性が強いことが判明した。
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