固体酸素の金属化や分子解離といった現象の解明は固体物性論や化学結合論の見地からだけでなく惑星科学の立場からも重要なテーマである。最近、高圧下95GPaで反射スペクトルにDrude型の金属的振る舞いが観測され、金属酸素の存在が確実になってきている。 我々は高エネルギー物理学研究所(KEK)と欧州放射光研究所(ESRF)の高輝度放射光源を用い固体酸素の粉末X線回折実験を116GPaまで行い、金属化が報告されている圧力で構造転移を初めて観測した。観測された構造転移は単原子固体への分子解離において予想される構造変化としてはあまりにも小さく、この結果から新高圧金属相はまだ分子性がかなり強い、つまり、酸素分子:O_2像を残していることを提案した。 また、この転移前後の高圧相の精密構造解析のために、KEK及びESRFで粉末回折の再実験、さらにO_2分子の伸縮振動(ビブロン)の圧力依存性の測定と分子解離の探索のために、高圧ラマン散乱の実験を110GPaまで行った。この実験からビブロンのピークが構造相転移に対応して検出できなくなること、格子フォノン(リブロン)もこの構造転移が完結する110GPaで消え、なんらの新しいラマンバンドも観測されなくなることを明らかにした。我々はこの結果からこの構造転移が金属化を伴うことを結論した。ビブロン波数は15GPaから94GPaまで直線的に増加し分子内結合が圧縮により強められる事が明らかになった。高圧側でソフトニングを起こすH_2、D_2、N_2と比べO_2の圧力依存性は特異で、この事はO_2の三重項状態を成す反結合電子π^*の非局在化に由来することを提案した。この研究で得られた結果は、固体酸素の新高圧相が分子間相互作用の働きにより新しい化学結合状態を創っていることを示唆するもので、この高圧相に新奇な電気磁気物性が予測られる。
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