平成7年度は、以下の2点につき研究を行った。(1)ガリウム・ガ-ネット中で、X線と可視レーザー光との組み合わせによって起きるX線非弾性誘導散乱の理論的研究。(2)立方体ボロン・ナイトライド中の内殻励起子に共鳴する軟X線で誘起される共鳴ラマン発光の理論的研究。 (1)は、高エネルギー物理学研究所のトリスタン主リング、及び入射蓄積リングを用いて現在進行中の実験に密接に関係する問題である。あるX線をガリウム・ガ-ネット中で、可視光と、エネルギーのより少ない別のX線に分解すると云う非弾性散乱過程を観測する事が目的であるが、この過程は通常では観測されない。可視レーザー光の入射強度を極端に上げ、誘導放射を起こし得る時のみ観測されると考えられている。本理論研究の結果によれば、ガリウム・ガ-ネット中の内殻励起子に共鳴するX線で励起すれば、十分観測可能な強度になると云う結論になり、これは、最近、並河らにより実際に観測された。 (2)は、物質の価電子帯の情報を得る方法に関係した問題である。最近、光電子分光法より、価電子帯からの発光分光法のほうが、物質の価電子帯の情報を得るのに有利であると云う考えが提唱されているが、その根拠は、それ程明確ではない。この点を解明する為、立方体ボロン・ナイトライドを例にとった理論計算を行い、内殻励起子・格子結合がある時のみ、発光分光法が有利であると云う結論をえた。
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