有機物超伝導体の電子状態を調べるため、トンネル顕微鏡(STM)装置の整備及びトンネル分光測定を行った。まず、前年度に引き続きSTM装置に超電導磁石を組み込み、磁場下での測定を行えるようにする装置の改造を行った。また、実際の測定では有機物超伝導体(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の単結晶試料を用いたトンネル分光測定を行った。 装置の改造では、超伝導磁石をSTM装置に組み込むため、外のデュワ-部分を含めた周辺の構造部を改造するとともに、トンネルユニット部の入る内挿の金属デュワ-を新たに作製した。これを用いて予備的な測定を行い、最高磁場7T、最低温度1.4KでのSTM測定を行えることを確認した。 一方、有機物超伝導体(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2のトンネル分光測定を、単結晶試料の面の方向を変えながら行い、超伝導ギャップの波数空間における異方性を調べた。得られたトンネル微分コンダクタンスは明確な超伝導ギャップ構造を示すもののその関数形は面の方向に依存して変化した。このことは、STM分光測定においても、トンネル探針の方向の波数を持つ電子からの寄与を選択的に観測するためであると理解され、同時に(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の超伝導ギャップは2次元面(b-c面)内において大きな異方性を持つことが明らかになった。トンネルスペクトルの角度依存の解析から、超伝導ギャップはフェルミ面の線上で損失しているd-波の対称性を持つことが示された。今後、さらに磁場中のSTM測定を進行させる予定である。
|