近藤半導体CeNiSnにおいて形成されると考えられているエネルギーギャップを中性子散乱法で直接観測することが本研究の目的である。この測定を行なうのに最も大きな問題は強度が不足してシグナルが観測できなくなることであるので、この困難を解決するため、平成7年度は強度を上げるための装置開発を行った。それは冷中性子ガイドに設置されている三軸型分光器のアナライザーを水平方向にもフォーカスできるものに置き換えて、エネルギー分解能はコリメーターを使っている条件の値に保ったまま、全立体角を大きくとって強度をかせごうということで達成された。平成8年度はそのフォーカス型アナライザーのテストを行い、実際の実験に使えるようにノイズを落とすことを第一の目標とした。ノイズの原因はアナライザーとカウンターシールドを離したためにその部分から速中性子が入るためであることがわかったので、パラフィンによりカウンターシールドの入り口を補強しそれによるノイズを実用可能なレベルまで下げた。またコリメーターを使用しないため、空気やアルミによる散乱がサンプルからの散乱と区別しにくくなることが分かったので、サンプルの近くには余計なものは置かないとか、空気、ヘリウムなどのガスはなるべく排除しておくことが実験を行う上で重要になることが明らかになった。このようなテストの後にCeNiSnの磁気励起の測定を行ったところ、1meVのエネルギーの非弾性散乱が熱中性子の三軸型分光器の測定から推定された強度の約1/3しかなく、測定限界のほぼ下限に近いことが判明した。フォーカス型アナライザーにより一桁以上に強度が増えCeNiSnの磁気散乱ような弱いシグナルが観測できたことは本研究の大きな成果であると言える。しかしながらCeNiSnの準ギャップ的振る舞いを明らかにするにはさらに数倍の強度増大を目標にしなければならないことも明らかになった。
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