近藤半導体CeNiSnにおいて形成されると考えられている磁気励起のエネルギーギャップを中性子散乱法で観測することが本研究の目的である。磁気励起におけるギャップはゼロ周波数の測定であるNMRの実験により存在することが示されている。これと相補的かつより直接的な証拠を有限周波数の励起を、中性子散乱法で直接観測することにより得ることができる。この実験における最大の問題は、強度がとても弱くシグナルがノイズに埋もれてしまうことである。これを解決するために測定装置である冷中性子三軸分光器(HER)に、水平集光型アナライザーを取り付けて立体角を大きくとることで強度を一桁上げることを計画した。計算機を用いたシミュレーションにより装置パラメーターを最適化する設計でアナライザーを制作した後、テストを行ない、エネルギー分解能が同じになる条件で比較すると、以前の14倍の強度が得られることが判明した。またバックブラウンドを調査したところ、速中性子が検出器にはいってしまうことがわかったので検出器とアナライザーの間にパラフィンの遮蔽体を入れることによりノイズ対策をとった。以上によりHERは低ノイズかつ高強度が得られる性能のよい装置に改良されたのである。この装置により、CeNiSnの低エネルギー励起を、同位元素^<58>Niを用いて作製した多結晶的サンプルを用いて測定した。その結果1.5meV以下のエネルギーで磁気励起にギャップが存在することが明らかになってきた。この1.5meVというエネルギースケールは比熱、NMRから予想されるスケールの2-3倍であり新しい知見である。スペクトルの形と温度変化は明らかにNMRの結果と一致するギャップであることを示している。以上により当初の目的である磁気励起のギャップの直接観測が成功したものと結論する。
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