新たに見出された一連のホウ素炭化物の中で比較的容易に良質の試料が得られるLuNi_2B_2C(転移温度Tc=16.7K)およびYNi_2B_2C(Tc=15.7K)について、研究準備段階から引き続き基本的超伝導パラメータを調べ、その特徴をまとめた。その結果、ホウ素炭化物が層状の結晶構造を持つにも関わらず三次元的な系であり、比較的上部臨界磁場の低い清浄極限の第2種超伝導体であることが明らかになった。 次に電子状態の特徴について調べた。まず、比熱測定の結果から、これらの系の電子比熱係数がγ=18mJ/molK^2と通常の金属に比べて比較的大きいことが明らかとなり、フェルミ準位付近にかなり大きなNi3dの寄与があるであろうことが示唆された。この結果はバンド計算の結果と符号している。バンド計算の結果がこの系の電子構造の良い出発点となっていることは、他グループとの共同で行った光電子分光、軟X線発光、ドハースファンアルフェン効果の実験によって、さらに精密なレベルで確認された。 Ni3d電子に起因する比較的高い電子状態密度はホウ素炭化物において電子相関が重要な役割を果たしていることを強く示唆している。実際、光電子分光や輸送現象の実験から、電子相関の重要性が検証された。また、共同実験で行われたNMRの実験結果は、強い電子相関による反響磁性揺らぎの存在を明らかにし、ホウ素炭化物における超伝導は反強磁性スピン揺らぎの存在する状況下での超伝導であることが示された。 研究の最後の段階ではこのような状況下でエキゾチックな超伝導が実現している可能性を磁場中比熱をプローブとして検証した。その結果、混合状態において、√Hに比例した準粒子状態密度の磁場依存性を見いだした。この結果はギャップレス超伝導を暗示しており、非常に強い反強磁性揺らぎの存在を考えると、d波超伝導の可能性が示唆される。
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