研究概要 |
本研究は、(1)高圧合成の手法で作成された2本鎖梯子型量子スピン系のSrOu_2O_3、LaCuO_<2.5>、Sr_<14>Cu_<24>O_<41>、3本鎖のSr_2Cu_3O_5について銅核のNMRによって量子スピン揺らぎと磁性との関係、不純物やキャリヤード-ピング効果等を明らかにすること、 (2)良質な試料が得られた三角格子量子スピン系、LiNiO_2に関してLiのNMRによって低温・低磁場での磁気特性を明かにし、系固有の基底状態の性質を調べることを目的とした。 2年間の研究期間で以下のような成果が得られた。 1.Sr_2Cu_3O_5の銅核のスピン-格子(T_1)、スピン-スピン(T_2)緩和時間の測定から本系が200K以上では量子臨界揺らぎの特徴をもつこと、また低温60K以下で磁気秩序を示すことを明らかにした。 2.2本鎖梯子系LaCuO_<2.5>は、帯磁率の測定からスピンギャップをもつと示唆されたが、本研究から112K付近で磁気転移することを見出した。スピンギャップをもつ1重項スピン液体と磁気秩序の競合が起こっていることが明らかになり、新たな問題提起を理論家に提示することができた。 3.3角格子スピン系LiNiO_2のLi核のNMRからもこれまでで最も純良であると同定された試料で、スペクトル、シフト、内部磁場、T_1, T_2の緩和時間等の系統的な測定を行い、長距離磁気秩序は発生しないことを示した。この特異な磁性を理解するために、2重縮退した軌道自由度に起因した擬スピン反強磁性3角格子モデルを提案した。すなわち、擬スピンの1重項対(軌道1重項)、スピン3重項対によって形成される軌道スピン液体がLiNiO_2の基底状態になっていることを示唆した。 4.圧力誘起超伝導が発見された2本足梯子格子系、Sr_<14-x>Ca_xCu_<24>O_<41>についてSrをCaで置換することによってスピンギャップの大きさはSr14で510K、Ca11.5で270Kまで減少する。 5.Ca9以上でスピンギャップの減少は飽和する。 6.エネルギーギャップと同程度の高温域でのスピンダイナミックスは、1次元的な臨界スピン揺らぎの特徴を示す。 7.低温では、系の一次元性のためにホールが局在する。 本研究によって低次元量子スピン系のスピン励起の特徴が明らかとなり、新しい研究分野の方向を切り開くことができた。
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