研究概要 |
本研究の成果は、加圧下における分子間磁気相互作用機構の追究と、低次元ハイゼンベルグ系における量子多体系の協力現象の研究に要約できよう。先ず加圧効果については、強磁性体p-NPNNの圧力下磁場下における帯磁率・比熱の同時測定を行い、キュリー温度が圧力とともに急降下する事実を見いだした。その値は約7kbarの圧力下で45%にも達している。最近更にこれ以上の圧力値7-10kbarにおいて、転移温度はむしろ圧力とともに上昇し帯磁率の振舞いにも反強磁性の特徴がうかがえることを掴んでいる(未発表)。この結果は我々が従来得ていた反強磁性有機ラジカル結晶の転移温度が圧力とともに急上昇する結果とくらべても対照的である。これらの結果は、分子及び結晶構造、スピン密度等を考慮した種々の電子軌道を介して行われる電荷移動交換相互作用のポテンシャル及びキネティックな機構の競合によるものと考えられ、URHF等の第一原理に基づいた理論との対応も志向している。更に、加圧により磁気相互作用空間の低次元化が、加圧下磁気比熱測定の結果に反映されていることも見いだした。 一方、フェルダジル基を有する純有機結晶については、低次元量子スピン多体系の統計理論を実験的に定量的に検証する研究を行った。例えば、p-CDTV(3-(4-chlorophenyl-1,5-dimethyl-6-thioxoverdazyl)についてはこれまで得られていなかった一次元ハイゼンベルグ強磁性体(S=1/2)に対する磁場・温度をパラメーターとした自由エネルギーの評価及び絶対零度極限における帯磁率・比熱の臨界指数の見積、またTOV(1,3,5-triphenyl-6-oxoverdazyl)については弱強磁性の出現を利用して、反強磁性のスタガード帯磁率を実験的に見積もり、S=1/2二次元量子スピン系から三次元系へクロスオーバーするときのスピン相関の発達過程をCuO2面を持つ高温超伝導体におけるそれと対応させつつ検討した。
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