研究概要 |
本研究では,混合液体の2液相転移に関する臨界点近傍において,相転移と流動場との結合に起因する諸効果を,相転移現象の普遍性に基づいて調べることを目的とし,主にその顕微鏡観察,粘性測定,及び光散乱実験を行った。本研究で得られた主な結果の概要は,(1)混合液体の共存曲線内部における熱力学的不安定領域で出現する濃度ドメインは,流動下ではその流動方向に極端に引き延ばされた,いわゆるstring相を形成すること,(2)このstring相形成に伴う,いわゆる二相流の粘性挙動は,濃度ドメインの界面におけるずり応力のバラスを考慮した小貫理論の予測とほぼ合致すること,(3)ポリスチレン・ラテックス希薄水溶液を用いた流動下ブラウン運動に関する時間相関関数の測定から,その挙動が光学的条件及び流速に大きく依存することなどが分かった。このポリスチレン・ラテックス希薄溶液を用いた,流動下動的光散乱の実験的研究は本研究課題に密接に関連する,流動下における熱的ゆらぎの減衰率に関する知見を得ることを目的として行われた。以上の実験的研究から,相分離濃度ドメインのstring相の形成は,シェア流が濃度ドメインの界面の不安定性を抑制する結果であり,このstring相はシェアの解放(流動停止)によって適当なサイズに破砕し,界面張力によって再び等方的な球状ドメインを形成すること,また,この種のフラクタル構造をもつ相分離濃度ドメインの大変形に伴う粘性挙動はニュートン流体的振舞いをし,その二相流の粘性挙動が臨界普遍性に基づく共存二相のそれぞれの粘性率及び体積分率を用いて記述できること,回転型同軸円筒セルの内壁に極めて近い領域の溶液試料に対する動的光散乱実験から見積もられた核散係数は,背景流速の寄与を殆ど反映しないことなどの,流動場における流体についての興味深い知見を得た。
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