研究概要 |
今年度得られた成果を以下にまとめる。 (1)NIPAゲルのブリルアン散乱の測定とその結果の解析:測定自体は前年度までに終了していたが、結果の理論的解釈は今年度に入って完成した。それによると,自由水の配向緩和時間はバルク水とほぼ同じく10^<-12>sec程度であるが、結合水のそれは10^<-9>sec程度以下であることが示唆され、2種類の水分子の動的挙動に顕著な相違があることが示された。この結果は、J. Phys. Soc. Jpn 64(1995)p2898-2907に掲載された。 (2)NIPAゲルの収縮相における動的光散乱測定:収縮相のダイナミクスが初めて明らかになった。膨潤相から収縮相に転移を起こすと、ゲルは弾性的には固くなるにもかかわらず、濃度揺らぎの緩和時間は長くなることが示された。この、一般の弾性体とは逆の挙動は、転移に伴う網目の微視的構造変化と、結合水の動的性質を考えなければ説明できない(この結果は、現在Macromoleculesに投稿中である)。 (3)赤外分光による結合水の研究は、重水置換したゲルを用いて現在実行中であり、今年度内には一応の結果が出ることが期待される。 上記のように、今年度の研究により収縮相における綱目の不均一構造、及び水分子のダイナミクス関する知見が深まった。それ以前には、NIPAの収縮相に限らず、いかなるゲルにおいても、濃縮された状態での構造及び物性に関する知見は、ほとんど皆無だった点を考慮すると、これらは大きな進展として評価しても良いであろう。
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