今年度は、動的光散乱(DLS)、赤外分光(FTIR)、および核磁気共鳴(NMR)各測定により、N-isopropylacrylamide(NIPA)ゲルの体積相転移の、特に収縮相における結合水の状態を中心に研究を行った。先ず、DLSにより、ゲル収縮相のダイナミクスが膨潤相のそれとは非常に異なるものであることが明らかとなった。膨潤相は液体的であるのに対して収縮相は固体的であり、網目の集団拡散モードは低周波側に移動し、高周波側には新たなモードが現れる。前者は膨潤相に比べて、多分散的になり、運動の束縛が現れている。後者の起源は、側鎖の局所的運動と考えられる。 次にFTIRでは、アミドと水との水素結合によって誘起される.アミドIおよびII各モードの振動数変化が観測できた。収縮ゲル中には、NIPAモノマー1に対して4分子のH_2Oが存在するが、アミドに水素結合するのはその内の2分子と考えられる。残る2分子は直接水素結合しないでその周囲に存在するか、または結合する水分子は、一定の時間間隔で入れ替わっていると思われる。いずれにせよ、試料ホルダーや試料のセッティングに注意することにより、結合水だけのスペクトルを得ることも可能であることが分かった。 網目に結合しているプロトンのNMRを、15-45℃の範囲で、温度の関数として測定した。収縮相ではそれらのプロトンのスペクトルは観測できなかったが、これは膨潤相に比べて収縮相では網目の熱運動が、極めて強く制限されるためであると解釈できる。この結果は、収縮相が固体的であると言うDLSの結果を裏付けている。また、H_2Oプロトンのスペクトルの詳細な解析によりゲルの不凍水と自由水との区別が付けられるかどうかについて、現在検討中である。
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