研究概要 |
介形虫類を含む甲殻類では,とくに科レベル以上になるとそれの科を特徴付ける形質が不連続に独立して存在するため,高次分類群間の系統関係の推定は通常の形態解析からでは困難をきわめた.そこで属以下の系統関係の推定に効果的に用いられてきたポアシステムの分布・分化パターンを科レベル以上にも応用することを試みた.種間の比較においては幼体後期のポアシステムが解析されたが,本研究では幼体前期のポアシステムの比較が有効であろうと仮定し,分析した結果,それが見事に実証された.従来関係の不明瞭であったXestoleberis科,Leptocythere科,Cythere科,Loxoconcha科の関係がポアシステムの分化パターンによりグループ化され具体的に示された.これにより,介形虫類は高次から低次にいたる系統関係推定にポアシステムという便利な物差しを有することになった.この成果は97年2月の日本古生物学会で発表され(瀬戸ほか,1997),また投稿論文を準備中である. また,介形虫ミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列(636塩基対)の決定法を確立し,3科5属7種9タイプの介形虫の配列の比較に成功した.COI領域は予想以上に塩基配列の置換速度が速く,研究対象とした介形虫類では近縁種間の比較には適しているものの属間・科間の比較には多重置換を生じているため不適なことが判明した.しかしながら介形虫類のDNA塩基配列の解読に成功したのは世界で初めてであり,この成果も97年2月の日本古生物学会で発表され(岡本ほか,1997),また投稿論文を準備中である. 以上のように本年度においては介形虫の系統関係を推定する有力な基準を2つ確立した点で大きな成果があったと結論される.
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