研究概要 |
普賢岳の噴出率とドームの形状-斑晶量-化学組成とのパターンにはずれが見られる.マグマ溜りからドームまでは火道に満たされた溶岩があるため,溜りの圧力はすぐに地表に反映されるのに対し,その時に溜りを出たマグマが地表に出現するにはタイムラグが存在するはずである.マグマが地下約10km付近から平均的に直径が約100mのパイプ状の火道を上昇したとすれば,地表に出るまでに,供給率が高い時で50日,低い時で200日以上要する. マグマ溜りの過剰圧が上昇すると(噴出率が上がると)結晶の少ないマグマが押し出される.このマグマは低粘性で珪長質である.この粘性の低いマグマが地表に出現するまでに,やや冷えて"古い"溶岩が押し出されて大きめの崩落をおこす.より粘性の低い溶岩が出現するようになると,ローブは長く成長し,結果的にドーム全体のアルペクト比が小さくなる.このような繰り返しがこの4年間に2回もあったものと考えられる. 一方,噴出した溶岩全てには岩石学的にマグマ混合の痕跡が認められる.低温で結晶質のマグマと高温で無斑晶質のマグマの混合と解釈される.結晶質の方がメルト自信の分化がより進んでいるが,全体としてはより苦鉄質と期待される.これは,溶岩中に捕獲岩されている粗粒の安山岩や玄武岩がこれを代表している可能性がある.低温結晶質で苦鉄質マグマの方が溜りのより壁際にあり,高温珪長質の方がより内側にあったと考えるのが自然である.マグマ溜りの過剰圧が高い場合には,溜り内部の高温マグマがより選択的に押し出され,過剰圧が低いと壁際の低温マグマが多く混ざるという機構が考えられる.すなわち,高噴出率時には,マグマが低い結晶量と高い温度のために低粘性になる.
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