研究概要 |
マグマ溜りで結晶作用は溜りの天井や壁などのboundary layerでおこる.そこでは壁に付着する結晶と軽いメルトの分離がおこり,マグマ溜りの壁には細粒の結晶が濃集した「急冷縁」とその内側にメルトを含むcrystal mushが形成されると考えられる.溶融が進行する場合にはcrystal mush部に融け残った急冷縁や壁岩の結晶が混ざると予熱される.このように,急冷縁が生じたり壁岩が融けながらmushy layerが常に存在するため,結晶量の異なるマグマが常に共存する.また,一端boundary layerで晶出した結晶や壁岩の溶け残った結晶のrecyclingが頻繁に起こり、結果的に非平衡な結晶の組み合わせや複雑な組織を持った結晶が形成される.このようなマグマ溜りがたどる熱史を岩石学的に理解するには,噴火活動の時間軸が明瞭である雲仙普賢岳の試料を用いることが不可欠である.普賢岳噴火の溶岩はシリカでわずかの時間変化を示し,それは溶岩の斑晶量の変化を反映している.すなわち,斑晶に富んだ溶岩はよりシリカに乏しく,噴出率が高い場合にはマグマ溜りからより無斑晶質のマグマが絞り出され,噴出率が低い場合には斑晶の多いマグマが絞り出されたと考える.これは地下に斑晶量の異なるマグマが同時期に存在したことを示しており,マグマ溜りの空間的な結晶量のばらつきを反映している可能性がある.ここでは,異種のマグマの混合を採用せずとも,マグマ溜りの熱史に伴う複雑なマグマ過程を考慮することによって,デイサイト溶岩中に見られる斑晶の不均一な組織や組成分布,および,暗色包有物の存在が無理なく説明できることを示した.
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