研究概要 |
初期太陽系星雲の高温過程における固体鉱物の蒸発および冷却に伴うガスからの鉱物の再凝縮の反応速度を求めることは、星雲の進化と隕石に含まれる高温鉱物がしばしば示す非平衡な鉱物組み合わせや同位体分別の形成条件を知る上で決定的な情報である。さらに、それを一般化するためには反応を支配する素過程やメカニズムを明らかにしなくてはならない。そのため、真空中や水素ガス中での蒸発速度や蒸発係数のわかっているフォルステライトの蒸発の異方性を実験的に求めることを試みた。研究遂行のため、新たに高温真空装置を開発した。フォルステライト単結晶をa-軸およびc-軸方向に引き上げて合成し、定方位になるように小さく切り出して、実験をおこなつた。その結果、(100)、(010)、(001)の各結晶面は、それぞれ特有の表面構造をもつことがわかった。表面微細構造を用いて各面の蒸発速度を求めると、[100]、[010]、[001]方向にそれぞれ8.5,5,38mm・sec^<-1>で、[001]方向の速度が圧倒的に大きい。各面の固有の蒸発速度をもち、面の蒸発速度は固有の速度と転位の寄与による速度の和で表されるという仮定をおこない異方性の内容を検討した。全体としての速度は2通りの方法で求めた。第一に3つ以上の重量変化のデータから最小二乗法により各面速度を見積もる方法、第2に実際に一定時間の厚さの変化を測定する方法である。前者の方法で求めた速度は各面に対し、19,8,38μm・sec^<-1>、後者の方法では14,5,16μm・sec^<-1>である。両者の差から面の蒸発速度全体に対する転位の寄与を見積もると[100]方向で約50%、[010]方向で約40%、[001]方向ではほとんどない、といえる。結晶の単位格子でみると、[100]方向が毎秒約5層、[010]方向が約1層、[001]方向が約18層が蒸発することになる。これは原子密度比のちがいでは説明できず、速度を律しているのはむしろ表面カイネティクスに依存する効果と考えられることが明らかとなった。
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