パルスESR法の最大の利点である多次元法を発展させ、他の方法では得られない電子相関に関する情報を得ることが本研究の目的である。本年度は、昨年来行っている溶液中の光化学反応における多次元法の有用性の追及を進めるとともに、固体中の励起多重項の同定への応用を試み、多次元法の適用範囲の拡大を図った。今年度の成果は以下の通りである。 1) CTACミセル中の亜鉛ポルフィリン-デュロキノン光誘起電子移動反応系の反応中間体・ラジカル対に対して、二次元ニューテーション法による詳細な解析を行った。その結果、スペクトルのシミュレーション、ラジカル対の決定的な同定、ラジカル間の相互作用パラメータJの決定に成功した。 2)同じ系に、ESRでは初めてJ分光法を適用し、スペクトルのシミュレーションを行ない、Jの最大値を決定して、その有用性を示した。 3) 1)のような全励起に相当する系ではなく、固体で部分励起に相当する系に二次元ニューテーション法を適用した。この系は、C_<60>フラーレンにラジカルが結合した系で、励起状態としてこれまでの一重項や三重項とはことなり、四重項、二重項などの多重項が期待される系である。予想通り一次元では種々の多重項状態の信号が重なっていたが、ニューテーション法によりそれぞれが分離され、同定された。 4) 3)の系に関する溶液中の実験・解析が進行中であり、最終報告には少しの猶予を願いたい。
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