開殻分子を含むラジカル錯体は、化学反応ダイナミクスの解明に重要な寄与をする分子種であるが、これまでのところ分光学的研究は限られている。分子錯体に特有の大振幅運動と不対電子との相互作用を明らかにする目的で、本研究ではフーリエ変換マイクロ波分光法とマイクロ波とミリ波の2重共鳴分光法をこれらの系の分光に適用し、そのダイナミクスを明らかにすることを試みた。 本年度は、昨年度より研究を進めていたNe-OHとAr-SHの系に加えH_2O-OHとH_2S-SHの系に関する研究を進めた。このうち、水素結合系であると考えられるH_2O-OHは、比較的堅い構造を持ち、通常の分子間錯体として解析できた。一方、H_2S-SHはスペクトルにかなり異常が見られ、その安定構造の決定も含め、更なる研究が必要である。更に今年度は、分子イオンと希ガスとの錯体であるAr-HCO+とKr-HCO+のスペクトルも新たに観測できた。これらは、中性分子同士の錯体と異なり、電荷誘起の相互作用が存在する。適当な静電モデルでその構造と分子間ダイナミクスが説明できることを示した。 また、これらの錯体の安定構造、ダイナミクスの解明には精度の高い分子軌道計算の補助が必要である。スペクトルを観測した系に対し比較的高精度の分子軌道計算を適用し、錯体の構造、相互作用ポテンシャルを求め実験と比較した。イオン錯体、H_2O-OHなどでは良い一致が見られることが確認できた。
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