分子の電子励起状態には、基底状態からの光学遷移が対称禁制な励起状態やスピン禁制な励起三重項状態など、種々の制約により従来の分光法では観測不可な励起状態がある。本研究は、光脱離敷居光電子分光法を用いて、これら観測が困難な電子励起状態の系統的な知見を得ることを目的とする。 (1)質量選別負イオン敷居光電子分光装置の制作:対称禁制やスピン禁制な励起状態の検出を可能とする、パルス放電型の負イオンビーム源を持つ測定装置を制作した。測定器の負イオン選別部は、負イオン引き出し用のパルス電場部から敷居光電子検出部まで到達時間差を利用した飛行時間型とし、Nd^<3+>:YAGレーザーで励起した色素レーザーを光電子脱離レーザーとして用いた。 (2)NO_3ラジカルの光学禁制励起状態の検出:上記装置によるNO_3ラジカルの対称禁制励起状態(^2E″)の測定に先立ち、ダイオードレーザー分光法により、禁制状態の縮重振動(e′)がカップルした振電励起状態(^2A″)への平行遷移を観測し、禁制状態の予備的な知見を得た。 (3)塩素分子のイオン対状態の観測:塩素分子の高エネルギー励起状態であるイオン対状態は基底状態に比べて平行核間距離が長いため、その遷移がFranck-Condon禁制となっている。B^3II(O^+_u)状態を中間状態とした光一光二重共鳴法によりO^+_u(^3P_0)状態の観測に始めて成功し、その詳細な分光学的知見を得た。
|