硝酸ラジカル(NO_3)の電子励起状態には、近赤外光領域に基底状態(^2A^'_2)からは一光子遷移が対称禁制となる励起状態(^2E^")がある。本年度は、以下の2つの分光法を用いて、この第一励起状態の電子構造に関する研究を行った。 (1)質量選別負イオン光脱離光電子分光法:昨年度制作したパルス放電型の負イオンビーム源をもつ光電子分光装置を用い、硝酸の放電で生成した硝酸ラジカルイオンを飛行時間型質量分析器で質量選別した後、YAGレーザーの第三高調波(355nm)で光脱離させた電子の運動エネルギーの分析から第一励起状態が約7000cm^<-1>の領域に存在することが確認できた。しかし、本装置の分解能(0.1eV)では、励起状態の振電構造に関する知見を得るには不十分だった。 (2)近赤外ダイオードレーザー分光法:7602cm^<-1>付近に硝酸ラジカルの吸収スペクトルが観測できた。ゼーマン変調法を利用すると帰属が容易となり、この遷移が基底状態(^2A^'_2)から第一励起状態(^2E^")において縮重変角振動(e^")との振電相互作用により生じた振電励起状態(^2A^"_1)への平行遷移(^2A^"_1-^2A^'_2)であることが解った。回転線の解析から、励起状態も基底状態と同様にD_<3h>の平面構造をとり、励起状態のスピン回転定数が丁度基底状態のものと大きさが同じで符号が異なることから、基底状態のスピン回転相互作用は第一励起状態の影響で生じることが結論できた。
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