本研究の目的を達成するために、今年度はまず、構造的に再現性のあるアモルファス薄膜を作成するための高真空容器を設計・製作し、また、ラマン散乱光などを高感度で測定するための光学系の整備を行った。ついで、それらの装置を使って、分子性薄膜からの光散乱に関する基礎実験を行った。 上記の真空装置には、ターボ分子ポンプ・高真空仕様フランジおよびゲートバルブ・ガズフロー型クライオスタット・液体窒素トラップなどを装着し、10^<-7>Pa台の真空度と15Kの低温を達成した。また液体窒素トラップの効果で、クライオスタット昇温時の試料再凝縮をさけることができるようになった。25mW He-Neレーザー・75cmシングル分光器・2インチノッチフィルター・0.5インチCCDなどと上記の真空容器を組み合わせたラマン散乱測定系を組立てることにより、10μm程度の膜厚の結晶性膜の場合には、約300cm^<-1>の範囲のスペクトルを数10秒で測定できるようになった。 以上の装置を用いて、(1)アモルファスクロロベンゼンの結晶化と光散乱の時間変化、(2)アモルファスニトロベンゼンと結晶性ニトロベンゼンにおける膜厚とラマン散乱強度の関係、の2つのテーマで実験を行った。(1)の実験では、レーザーから放射される自然放出線の弾性散乱と試料のラマン散乱の強度を同時に測定し、薄膜の結晶化に伴う結晶性粒子の成長に対して弾性散乱とラマン散乱が異なる強度変化を示すという興味深い結果を得た。このことは、本研究で注目している物質の誘電特性の空間的ゆらぎとラマン散乱強度の関係について重要な示唆を与える。また、(2)の実験では、数μmから10μm程度の膜厚の結晶性膜の弾性散乱でラマン強度に若干の多重散乱の効果があることなどがわかったが、弾性散乱強度の膜厚依存性については、今後さらに検討を行う必要がある。
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