初年度に製作した真空容器を用いて、低温基板への蒸着により作成したアモルファス膜の結晶化にともなう、光散乱強度の変化の測定を継続した。その結果は、試料中に径が0.5μmの程度の結晶粒子が生成し、Mie散乱が起こっていると考えると理解できる。しかし、並行して行ったX線回折による研究からは、アモルファス試料中に生じる結晶粒子の径が20〜40nmであることが推定された。試料の結晶化にともないラマン散乱強度が増加することは、試料中での散乱によりラマン励起光の光路長が実質的に長くなったと考えれば定性的に理解できるが、X線回折と光散乱の結果をあわせて定量的な理解に到達するために、さらなる検討を予定している。 一方、アモルファス試料作成時の基板温度の違いにより、生成する試料膜の光散乱特性が異なることが推定されていたので、系統的にそのことを調べる実験を行った。試料物質にはクロロベンゼンを用い、蒸着時に試料膜厚が増加するにともなう膜中のレーザー光の干渉状況の変化をモニターした。その結果、78Kにおいては光学的に均質な膜が数10μmの膜厚になるまで形成されるが、それより低温では、光散乱をおこす光学的な不均一が膜内に生じやすいことがわかった。極低温で作成されたアモルファス試料のラマン散乱強度が小さいことの原因として、この試料状態の不均一が考えられ、現在、試料中の密度揺らぎのサイズ・振幅を求めることを検討している。 今年度の本研究では、さらに、固体アモルファス状態から液体状態への変化にともなうラマン散乱強度の変化を検証する実験を行うためのクライオスタットを新たに設計・製作する予定であったが、設計が難しく、まだ製作段階に入っていない。今後継続して作業を行う予定である。
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