本研究は、アモルファス物質のラマン散乱強度が試料の分極率の空間的不均一の影響を受け弱くなることを実験的に確認し、あわせてラマン散乱が干渉性の光散乱であることを示すことを目的として行った。初年度はまず、構造的に再現性のある分子性アモルファス膜を作成するための高真空容器を設計・製作し、また、ラマン散乱光を高感度で測定するための光学系の整備を行った。ついで、分子性膜の光散乱に関する基礎実験として、レーザーの自然放出光が試料によって受ける弾性散乱の強度とラマン散乱の強度とを比較した。その結果、試料中の結晶成長に対して、これら2つの強度が異なる応答を示すことを見いだした。これは、試料のモルあたりラマン強度が結晶粒径に依存することを示唆している。この結果をもとに、分子性膜のラマン強度の膜厚依存性を調べることを目指した。この実験では、膜厚評価方法やスペクトル検出感度の制約があり、1μm程度より薄い膜厚領域では実験方法の改良が必要であることがわかった。 第2年度では、アモルファス膜作成の際、試料の光学特性をレーザー光の干渉により系統的に調べる実験を行った。その結果、基板温度が比較的高いときには光学的に均質な膜が数10μmの膜厚になるまで形成されるが、極低温では、光散乱をおこす光学的不均一が膜内に生じやすいことがわかった。このことは、低温基板への蒸着により、分子数密度の不均一を生じやすいことを示している。並行して行ったX線回折による研究、アモルファス試料中に生じる結晶性粒子の径が30〜40nmであることが推定されており、これらの結果をあわせて、アモルファス物質のラマン散乱強度と試料中の分子数密度揺らぎの問題について、今後検討を継続する予定である。
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