一酸化窒素(NO)は生体内でアルギニンからNO合成酵素によって合成され、グアニル酸シクラーゼ機能をもつ酵素に結合すると、シクラーゼ活性が約200倍高くなる。GTPからcGMPをつくる反応はNO結合部位とは別の部位で触媒される。本研究では、ウシ肺の可溶性グアニル酸シクラーゼを単離・精製し、そのNO結合部位の共鳴ラマンスペクトルを測定した。新鮮なウシ肺のミンスより、イオン交換、ヒドロキシアパタイト、GTP-アガロース、ゲル濾過などのカラムクロマトグラフィーにより可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を比活性にして5万倍に精製することに成功した。精製標品はSDS・PAGEで90%以上の純度であり、ヘム蛋白質に特徴的な可視・紫外吸収スペクトルを与えた。この標品にNO或はMnを添加すると、活性は著しく増大した。またヂフテリア毒素等でADPリボシル化を受け、活性は上昇した。その標品の共鳴ラマンスペクトルを406.7及び441.6nmのレーザー光で測定した。精製したままの状態では5配位Fe^<II>高スピン型の良好なラマンスペクトルが得られ、Fe^<II>-ヒスチヂン伸縮振動と思われるバンドが204cm^<-1>に観測された。これにNO気体を導入すると204cm^<-1>のバンドは消え、v_4バンドは1358cm^<-1>から1375cm^<-1>にシフトすると共にスペクトルパターンが変化した。^<15>NOで振動数シフトするバンドが525と1682cm^<-1>に観測され、それぞれFe^<II>-NO及びN=O伸縮振動に帰属した。この状態ではFe^<II>-ヒスチヂン結合が切れ、NOの配位した5配位ヘムが生成していることが示唆された。NOの配位した状態に基質のGTPを加えると、まず、NO伸縮バンドが見えない状態がしばらく続き、その後それが1682と1700cm^<-1>に2本現れる状態となった後、元と同じスペクトルを与えないようになった。その構造化学的な意味について、ミオグロビン-NO錯体のpH変化等を共鳴ラマン分光で観測しながら、理解を深めつつある。
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