電子励起状態と基底状態を結び付けるレーザー光と、電子スピン副準位間を結び付けるラジオ波との二重共鳴条件を成立させるためには、次の実験的条件を満たさなくてはならない。良い単結晶(または混晶)試料、数MHzの線幅で安定発信するレーザー、コヒーレント性を消失させる格子振動を抑えるための極低温測定、ラジオ波発信器と効率の良い共振器である。これまでにこれらの実験条件を完成させ、今回の科学研究費補助金で、レーザー光を数MHzの線幅を保ったままで線幅の10の6乗倍ほどの波長領域にわたって安定に掃引できるオートスキャン波長掃引装置を導入でき、すべての準備が今年度中に整った。 まずイオン結晶中のカラーセンターについて予備的な測定に成功した。つまり、LaF_3結晶中にドープされたPr^<3+>カラーセンターの電子遷移にレーザー波長を固定しておき(632nm)、ラジオ波の周波数を掃引してI=5/2のPr原子核スピン共鳴遷移に対応するラマンビ-ト信号を検出できた。ラマンビ-ト検出装置にレーザーのオートスキャン波長掃引装置が装備できたので、電子遷移スペクトルに対応する光の周波数とNMR遷移のラジオ波周波数をスキャンして、二重共鳴遷移のピーク強度を3次元プロットできた。 試料作成についても、ルテニウム金属錯体をホストとしたオスミウム金属のビピリジン錯体を準備できた。このオスミウム金属錯体の混晶結晶はたいへん分解能の良い吸収・発光スペクトルを与えることが知られており、結晶サイト依存性を持つ近接する複数の三重項状態が確認され、対応する振電スペクトル線は特長的な磁場効果を示すことが報告されている。今後、振電相互作用によるスピン-軌道角運動量の複雑な結合関係を実験的に直接測定することで、複雑なスペクトル線を完全に帰属したい。
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