研究概要 |
ヘテロ元素クラスター化学は炭素クラスターに比較して全く未開拓の分野であった.特に,テトラヘドラン,プリズマン,キュバンなどのカゴ型炭化水素は,高い歪みエネルギーと美しい骨格を持つために,長年,化学者の夢をかきたててきた化合物群である.「化学の細工物」と呼ばれるこれらの骨格を,炭素と同族のケイ素やゲルマニウム,スズなどの重元素で構成することは極めて興味深い研究であり,ヘテロ元素クラスターの合成と構造の解明は極めてチャレンジングな研究テーマである.本研究は,ケイ素やゲルマニウムなどの第3周期以降の元素からなるプリズマン,キュバンなど高い対称性を持つクラスター化合物を合成する方法論の開発と構造の解明を明らかにすることができた.本研究によって得られた研究成果は次の通りである. 1)高周期元素キュバンクラスターとしてシラキュバンおよびゲルマキュバンの合成法の確立. 2)シラキュバンおよびゲルマキュバンのX線結晶構造解析による分子構造の確定. 3)高周期元素プリズマンクラスターとしてシラプリズマンおよびゲルマプリズマンの合成法の確立. 4)シラプリズマンおよびゲルマプリズマンのX線結晶構造解析による分子構造の確定. 5)高周期元素クラスター化合物の電子スペクトルや固体NMRによる物性の解明. 尚,世界に先駆けて初めてヘキサゲルマプリズマンを合成し,Angewandte Chemieや現代化学の表紙を飾るなど国内外に大きなインパクトを与えることができた.また,ヘキサシラプリズマンやヘキサゲルマプリズマンは高周期元素を骨格としたベンゼン,デュワ-ベンゼン,ベンズバレンなどの原子価異性体でもあり,全く未知分野のこれら原子価異性体へ変換可能であることを実験化学的に実証することもできた.
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