研究概要 |
本年度は面選択性を考察する反応系として、(1)カルボニル基に対する有機金属試薬の求核付加反応の面選択性,特にケトンおよびアルデヒドのヒドリド還元の面選択性、(2)アルケンやエノラートへの求電子付加反応としてハイドロボレーションの面選択性,の2つの反応を取り上げ、実験および理論の両面から考察した。モデル分子の合成を進める傍ら,カルボニルの金属ヒドリド還元反応の選択性理論モデル(エクステリアフロンティア電子モデル:Exterior Frontier Orbital Electron Model;以下EFOEモデルと呼ぶ))を完成させた.このEFOEモデルでは「反応中心付近の分子表面外部(エクステリア)におけるフロンティア軌道の波動関数の空間的広がり(係数の大きさではない)が面選択性の決定因子である」と考え,反応選択性の量的指標として,一定の基準で空間分割された分子表面の電子密度(エクステイアフロンティア電子密度;Exterior Frontier Orbital Electron Density;以下EFDと呼ぶ)だけを積分して定義した.このように定義された電子密度を選択性指標として用いることにより,立体効果が考慮された面選択性の指標が半定量的に定義できた.実際に観測された選択性とEFDを比較した結果,実験結果をほぼ例外なく説明できた。すなわち,従来の2つの代表的モデル(Felkin-Anh Model,Cieplak Model)は遷移状態に着目しているので一見本質を見抜いて居るようだが,EFOE Modelの示すところによれば,ヒドリド還元の面選択性はフロンティア軌道のカルボニルп面上下での広がりの差に本質があるということである.自然を支配する法則はsimpleで美しいという福井謙一博士のフロンティア軌道理論の奥の深さを示している.このことをフロンティア軌道(この場合はLUMO)の新定量解析法を用いて示すことが出来た.Felkin-Anh ModelやCieplak Modelのように遷移状態での共役などの難しい議論をしなくても面選択性は定性的に簡単なルールで予測できる可能性があることを示すことが出来た.これらの成果は7年度の有機反応討論会(岡山,7.10.19-20)で発表した. また、立体効果を消去したビシクロ[2.2.1]ヘプタン系をモデル系として,ハイドロボレーションの面選択性の実験的評価を行った.この結果は日本化学会春季年会(東京,8.3.28-31)および有機金属化学国際会議(Australia,8.7.7-12)で発表予定である.
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