研究概要 |
本研究はカルベンの持つ一中心ビラジカルという電子配置を保持し、かつ磁性材料等としても注目されている三重項状態を安定化し単離することを目的とした。一重項状態カルベンは単離されたとの報告はあるが、その構造に関してはまだ論議の多い段階である。三重項の安定化は立体保護基を用いる速度論的な安定化が最も適しているが、カルベンはC-H結合とも反応する高反応性を持つため、一般に保護基としてよく用いられているt-ブチル基は有効ではない。そこで本研究では三重項カルベンに特有な保護基として、トリプチシル基、ビシクロアルキル基等三次元保護基を中心とした研究を展開することゝした。 三次元保護されたカルベン先駆体として、トリプチシル(アリール)ジアゾメタン(アリール基としてフェニル、α-及びβ-ナフチル)を合成し、その光分解によって発生するカルベンの反応生成物分析、分光学的手法による寿命測定を行った。そして予想通り、これらのカルベンは保護を受けていないものに比して10^2〜10^5倍長寿命であることを明らかにした。 一方、ビシクロアルキル置換基については、1,4、5,8-ビス(エタノ)-1、2、3、4、5、6、7、8、-オクタヒドロアントラセニル(アリール)ジアゾメタン(アリール基としてメシチル、デユリル)の合成に成功し、これについても生成物分析、寿命測定を行った。しかしこの場合、発生したカルベンの寿命は非置換体よりは長寿命であったが、対応するポリアルキルジフェニル体と同等であり、三次元保護基の効果が認められなかった。
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