研究概要 |
光学活性化合物の効率良い合成法の確立は有機合成化学上の重要な研究課題である.特に,触媒的不斉合成反応は潜在的効率性の高さから最もその開発が望まれている.従来の不斉合成反応は分子同士が反発し合う相互作用(repulsive interaction)を利用することで,立体選択性を実現してきた.私はこれ迄に,遷移金属触媒不斉合成反応の開発研究に取り組み,触媒上での高度な不斉空間構築に上述のrepulsive interactionを利用してきた.一方,近年,分子間の引き合う力(attractive interaction)が分子レベルで定量的に評価されつつある.この相互作用は水素結合や疎水性相互作用が駆動力となり分子が持つ官能基が互いに引き合う『官能基誘引型』の相互作用である. 本研究ではこれらの相互作用を同時に活用した不斉反応場の構築を目指している。平成7年度には,官能基誘引型の相互作用を発現し得る有機基が導入可能な不斉分子の基本骨格の探索を行なった.実際には,面不斉メタロセン骨格,軸不斉ビアリール骨格の官能基化に関しての検討を行ない,多様な官能基導入が可能な幾つかの分子変換経路を確立した. 平成8年度には,特に新規に設計・開発した光学活性ビスオキサゾリルビアリールの遷移金属触媒不斉反応における基本的不斉誘起能の検討と,その有用性の確立,柔軟な官能基導入法の探索を集中的に行った.その結果,光学活性ビスオキサゾリルビアリールを配位子とするパラジウム触媒を利用することでワッカー型反応の高度な不斉化に初めて成功した.また光学活性ビスオキサゾリルビアリールを配位子とするパラジウム錯体の構造を明かとした.さらに同配位子の配位部位であるオキサゾリル基近傍への官能基導入を検討し,アミノ基,エステル基をはじめとする種々の官能基導入に成功した.これら官能基は官能基誘引型の相互作用を発現することが期待される.
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