従来の不斉合成反応では不斉触媒の構造と生成物の構造とは異なっており、反応終了後これらを分離する操作が必要とされている。これに対し、不斉触媒と生成物の構造とが同一である不斉自己触媒反応においては、不斉触媒と生成物の分離操作は不要である。 本年度は初めに、キラルな5-ピリミジルアルキルアルコールの不斉自己増殖反応について検討を行った。キラルな5-ピリミジルアルキルアルコール(20モル%)を不斉自己触媒として用い、ピリミジン-5-カルボキシアルデヒドとジイソプロピル亜鉛とを作用させたところ5-ピリミジルアルキルアルコールが不斉自己増殖することを明らかにした。不斉自己触媒として光学純度99.9%のものを用いた場合、新たに生成した5-ピリミジルアルキルアルコールの光学純度は98.2%という極めて高い不斉収率で不斉自己触媒反応が進行した。さらに、光学純度が低い(2%)不斉自己触媒を用いた場合には生成物の光学純度が元の触媒よりも向上し、反応を5回繰り返すことにより、量は942倍に増大し、光学純度は88%に向上した。さらに、キノリン-3-カルボキシアルデヒドの不斉アルキル化反応における不斉自己触媒反応を検討した。キラルな3-キノリルアルキルアルコールを不斉自己触媒として用い、キノリン-3-カルボキシアルデヒドにジアルキル亜鉛を作用させたところ、3-キノリルアルキルアルコールが不斉自己増殖することを明らかにした。 本反応は、低い光学純度の化合物が他の不斉触媒に依存することなく自己増殖することを明らかにしたものである。
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