キラル化合物が不斉自己触媒となり、自己と同一の構造および立体配置をもつ化合物を合成する不斉自己増反応は、従来の不斉触媒反応とは以下の点で異なる。(1)不斉自己触媒反応では、生成物とは異なる型の不触媒が不要、(2)反応終了後に生成物と不斉触媒とを分離する操作が不要。 本研究では、まず2-メチル-1-(5-ピリミジル)-1-プロパノール(1)の不斉自己増殖反応を検した。高い光学純度の触媒量の(S)-1にピリミジン-5-カルボキシアルデヒドおよびジイソプロピル亜を作用させたところ、触媒と同一構造の(S)-1が新たに生成し、類縁体での不斉収率は98%に達した。らに、低い光学純度(2%)の(S)-1を用いて不斉自己触媒反応を行ったところ、驚くべきことにはじめ用いた(S)-1よりも高い光学純度の(S)-1が生成することを見いだした。ここで得られた(S)-1つぎの反応の不斉自己触媒として用いることを繰り返すことにより、(S)-1の光学純度はほぼ90%に達た。これは、(S)-1の不斉化学進化的自己増殖反応と呼べるものである。 さらに、キノリン-3-カルボキシアルデヒドのジイソプロピル亜鉛による不斉イソプロピル化反応においも、キラルなキノリルアルカノールが不斉自己増殖し、クメン中での反応では不斉収率は94%であった。さに、キノリルアルカノールも不斉化学進化的自己増殖反応を行うことを明かにした。また、5-カルバモイルリジルアルカノールも不斉自己触媒となる。以上、本研究では、キラルな化合物が他からの助けを借りることく自己複製自己増殖し、かつ化学進化的に光学純度を向上させるという現象を見いだした。
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