1.ポルフィリンの水中における分子錯体:meso-テトラキス(4-(N-メチル)ピリジニウム)ポルフィリン(TMPyP)の水をマトリックスとするESI-MSを測定した結果、TMPyPは水中ではモノマーとして存在することが示唆された。この結果を基に、これまで我々が得てきた実験事実をモノマー説で全て説明できるかという検討を開始した。そこで1つの仮説をたてた。すなわち、TMPyPのモノマーとしての奇妙な分光学的挙動は、ピリジニウムカチオンからの電荷がポルフィリン環へ非極在化するためと仮定した。この仮説によりTMPyPと界面活性剤ミセルとの相互作用やNMRの結果の一部が説明できることが明かになってきた。現在、ペリ位に2個のピリジニウムを有するポルフィリンの合成を行っており、電荷の効果を一層詳細に検討する予定である。 2.アミノ化シクロデキストリンの包接錯体:β-シクロデキストリン(β-CDx)の全ての第1級水酸基をアミノ基に変換したポリアミノβ-CDxは、プロトン化された場合に、通常のβ-CDxとは逆の円錐台形の形となることが、化学計算の結果から分かった。このポリアミノβ-CDxに1-および2-ナフトエ酸(1-NA、2-NA)を結合させ、その錯体の構造をNMRから解析した。その結果、NA分子はその解離状態でポリアミノβ-CDxと静電相互作用すると同時にナフチル基をCDx空洞内に挿入して始めて安定な錯体を作ることが明かになった。この協同効果を利用すると、ポリアミノβ-CDxによるN-アセチルアミノ酸の中心不斉の認識を実現することができた。さらにモノアミノ化シクロデキストリンが多くのゲスト分子の中心不斉を認識することがCZE測定から明かになった。
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